森で育てられた少女

森で育てられた少女

今回は、人気アクセサリーデザイナーのmellowさんを紹介。代々木公園に近く、周囲も緑が多いアトリエにおじゃましました。

SOUQ
これが新作のアクセサリーですね。

mellow
めっちゃかわいいでしょ?(笑) 樹脂の型からオリジナルでつくっているんですよ。



SOUQ
新作のテーマってあるのですか?

mellow
今回のテーマは「キャンバス」です。mellowのアクセサリーってなんなんだろう?と考えたときに、私が大事にしている作品の要素は「植物」と「色」だなあって。そのうち植物は自ら育ててはいるけど…。

SOUQ
植物は自ら育てているのですか?

mellow
はい。冬などはお花屋さんから仕入れたものをドライにすることも多いのですが、主に実家で育てています。実は、私が植物モチーフのものをつくるようになったのは、森の中で育ったからなんですよ。

SOUQ
そう聞くと、まるでオオカミに育てられたみたいですが…(笑)。

mellow
野生児のように(笑)。でも本当に生まれ育った家は、ちょっと外に出ると周りにはなんにもなくて、庭に鹿の大群が来て囲まれたり。仲の良い友だちの家が自転車で1時間ほどかかるところにあって。

SOUQ
それは確かに森といっていい環境ですね。

mellow
だから私自身、山でひとりで遊ぶことが多くて。6人兄弟だったのですが、姉たちはすごく年が離れていたので、そんなに遊んだ記憶もなく。私の中で見つけた遊びは、四季で変わる植物を楽しむことだったんです。色とかを見てすごいなあって思ったり。小さい頃は、それを絵に描いてたんですよ。祖父が日本画家だったという影響もあって、絵も好きだった。



SOUQ
小さいときの環境が、今の作品にすごく影響を与えているわけですね。mellowさんはどんな植物が好きなんですか?

mellow
バラとか華美すぎるお花より、野花が好きですね。自分が小さいころに山で見ていた花や植物が好きで。雑草とひとくくりにしますけど、雑草という植物はなくて。ひとつひとつに名前があるんですよね。そういう野花がすごく愛しくて。

SOUQ
mellowさんの世界観に通じていますね…あっ、話の腰を折ってすみません。大事な作品の要素として植物のほかに色とおっしゃいましたね。

mellow
えっと…どこまで話しましたっけ?(笑) あっ、そうそう。植物は自分が生み出したものではなく、そこにあるものじゃないですか? それを私がコラージュしているだけなのかなあと思っていて。で、自分が完璧にオリジナルで生み出してるものってなんだろう?って考えたときに、色だなと。

SOUQ
色がオリジナル?

mellow
そう。小さいころから、絵の具の色も自分でアソートしてつくっていたんですけど、アクセサリーのカラーもすべて調合しているんです。たくさん色をつくってきたけど、今まであまり深く追求したことはなかったなと思って。で、これまでアクセサリーは金具の存在感が大きかったのですが、今回は樹脂の部分を大きくして、それをキャンバスに見立てて、カラーを追求したコレクションラインをつくったんです。



SOUQ
なるほど。絵画のように樹脂に描く色ですね。色を追求するとき、なにかインスピレーションはありましたか?

mellow
2017年にドイツとベルギーとフランスに旅行に行ったんですね。フランスは前にも行ったことがあったんですが、あらためてフランスの花の色がすごい好きだなって思って。シンガポールで世界一と言われる植物園にも行ったことがあるんですけど、私はヨーロッパの植物の色がやっぱり好きかな。

SOUQ
どういう色合いなんですかね?

mellow
表現が難しいのですが、アートな感じって言うんですかね。絵になるというか…どう言ったらいいんだろう? 日本の色より繊細ではない気がするのですが、パッと雑誌の表紙とかになりそうな色!
SOUQ
それが今回の「キャンバス」シリーズにも反映されていると。ヨーロッパには色を探しに行ったわけですね?

mellow
いや、今回の渡欧は、デザインのデザインをする自信がなかったので、それを見つけて理解するための旅でした。

SOUQ
デザインのデザイン?

SOUQ
2017年の年末にヨーロッパへ行かれたのは、「デザインのデザイン」を見つけ理解するためという話を前回聞いたのですが、それはどういうことですか?

mellow
ちょっと話が長くなりますがいいですか?(笑)。mellowは、2016年から、ブランドのイメージをつくっていくために、アートディレクションをお願いするようになったんです。ニットブランドとコラボすることになったんですが、そのブランドがアートディレクターさんを起用していて。「ああ東京やな」って思ったんですけど(笑)。そのときの撮影が、鳥肌が立つぐらいよくて。

SOUQ
それはどのような写真だったんですか?

mellow
深いプールにニットのシャツを着たまま入ってもらって、上からライトを照らして、カメラマンもダイバー装備でプールに入って撮影したんです。



SOUQ
確かに、かなり凝った撮影ですよね。

mellow
ほんとにスゴい!めちゃくちゃキレイ!ってなって。それからそのアートディレクターさんに仕事をお願いすることになったんですね。そしたら「mellowちゃんの作品は見せ方がもったいなさすぎる。せっかくこだわりを持っていいものつくってるのに」って言われたんです。

mellow
私の作品は植物の育成から始まっているんですよ。実家に植物を植えに行って、大量にプランターで育てて、山菜とかもやっていて。アートディレクターさんは、そういう良さが伝わってないと言ってくれて。



SOUQ
なるほど。それでアドバイスをくれたりしたんですか?

mellow
そのとき、私の作品の類似品が出回っていて、すごく悩んでたんですよ。でもそのアートディレクターさんは、「それはそうだよ。mellowちゃんの直感でするデザインは素敵だし唯一無二だけど、仕入れたもので制作してるから。デザインを盗まれてるかもしれないけど、それはその人たちが思いついたと言ってしまえばそれまでだからね。金具からすべて仕入れをなくしてmellowオリジナルにして、デザインのデザインをしなきゃ」って言われたんですよ。

SOUQ
ここで「デザインのデザイン」が登場ですね。

mellow
最初は意味がわからなくて、「はあー?」って感じだったんですけど(笑)。まずは金具からデザインしてオリジナルのものをつくっていこうということになって。でもそうすると、今まで以上にコストはかかるじゃないですか。やり方もすごく変わって。とりあえずオリジナルパーツをつくったのですが、まだ「デザインのデザイン」の意味は理解してなかったと思います。

SOUQ
自分の中で納得できてなかった?

mellow
そうですね。見た目はかわいいけど、なぜこういう形にするかっていう意味がないというか。そのあともしつこくアートディレクターさんから「デザインのデザインをしろ」と言い続けられて。「私の思うかわいい形にしてるのに、デザインのデザインって何者?」としか思えなくて(笑)。

SOUQ
(笑)。



mellow
でもその頃から、今までまったく興味のなかった他のブランドを意識するようになったんですよ。いろんな作家さんの考え方がわかるような本を読むようになって。で、デザインのデザインの意味がなんとなくわかり始めたんですよ。わかりやすく言うと、コンセプトを決めるとか、表面的なことではなくて強い幹をつくれということなんかなと。

SOUQ
一本筋を通せ的なことですかね?

mellow
私は、幹はあるといえばあるのですが、なぜ今回このアクセサリーをつくったか、その説明ができない。ただかわいいからつくったという意識しかない。もっとちゃんと意味を考えてつくったほうが、作品自体も重みが出る。買う人の想いも変わるなというのが、やっとつかめてきたんですよ。

SOUQ
買う人の想いか…。

mellow
それがヨーロッパへ行ったときに、自己分析をしてはっきりしてきた気がして。この何年間は、無理はしていたかもしれないけど、努力は全然足りてなかったなと思って。一個一個にかけるもっと深いものとか。だからこれからは、もっと深く掘り下げたものをつくろうとなって。

SOUQ
ヨーロッパの旅で、mellowの方向性が見えたわけですね。

mellow
そうですね。行きの飛行機の中で羽生結弦さんの本を読んだんですが、「羽生くんすごい!ちゃんと自己分析できてる!」って(笑)。羽生くんに感化されて、自分の色を見つけて帰ってきました。

SOUQ
小さいときから森の中で育って、植物に囲まれて絵を描いて。そこからアクセサリー作家への道は順調だったような気がします。

mellow
いえ全然(笑)。高校を卒業して、美容師の専門学校に入ったんですね。

SOUQ
美容師?意外な気がします。

mellow
小さい時にアトピーがあったり、喘息を患ったり。その影響もあって小学生低学年までの少女時代は運動できなかったので太ってたり。自分にコンプレックスがすごくあったんですよ。だから人をきれいにできる職業っていいなと思って、美容師を目指したんです。でも、まあ向いてなくて(笑)

SOUQ
なんで向いてなかったんでしょうね。

mellow
専門学校のとき、1学年280人ぐらいいたんですけど、下から数えて10人に入るぐらい技術が下手でしたね。



SOUQ
あまり好きじゃなかったんですかね?

mellow
なんか私、きちっとしたことができないんですよ。折り紙をきれいに半分に折ることさえできない。だから全然向いてないなあと。卒業していざ美容室に入ってみると、シャンプーもどこまでしたか途中で忘れちゃって。お客さんに40分ぐらいシャンプーして、グッタリさせるということもありました。

SOUQ
それは向いてないかもしれないですねえ(笑)

mellow
ですよね。で、美容室を辞めて、お金がなかったので、アルバイトを5本ぐらいするようになりました。それで、そのとき趣味でアクセサリーをつくってたんですよ。そのときは今のようなものではなく、造花を使ってやってました。



SOUQ
やはり植物モチーフだったんですね。

mellow
それから、当時姉たちが、家で羊毛でフェルトの人形をつくっていて。それがかわいかったから売ったらいいのにと思ってたんです。でも姉は森にこもっているので家にたまっていく一方で。だからそれを持って、堀江の雑貨屋さんに飛び込みで入って、「これ置いてください」と。そのとき、たまたま自分でつくったヘア飾りを着けていたんですけど、雑貨屋のお姉さんが「それよりも、そのヘアアクセサリーどこのもの?」って。それがすべての始まりでしたね。

SOUQ
どこにきっかけがあるかわからないですね。

mellow
そのすぐあと、ホテルのアートフェスに姉妹で出展したら、阪急百貨店のバイヤーさんが見にきてくれて。そこからうめだスークさんとのつきあいが始まりました。

SOUQ
本当にお世話になっています。



mellow
最初に店を出すとき、担当バイヤーさんが、「1週間でこれぐらい売ってくれれば」と予算を提示されたんですけど、想像以上の売り上げ額で。私、滋賀県の田舎者なんで、えっ、梅田ってそんなんなんやって。すごいと思って。それまで1万とか5万円ぐらいしか売ったことなかったのに。量もつくらないといけないし。でも必死になってつくって。予算を超えたんですよ。

SOUQ
いきなりすごかった。

mellow
バイヤーさんもびっくりして「ほんとに超えたの?」って。「えっ、あの言葉は嘘だったの?」ってなりましたけどね(笑)。全然知らなかったから、ほんとにビビってまして。予算超えなかったら、なんか買わされるんかなあと恐れてました(笑)。

SOUQ
そこからmellowさんファンも増えていったんですね。

mellow
ありがたいことですね。私が、自分でひとつの才能だなあと思っていることが、1回商品を買ってくれたお客さんは、どんな会話したとか顔を全部覚えてるんですよ。



SOUQ
それはお客さんとしてはうれしいでしょうね。

mellow
それで自分の予想以上にお客さんがついてきてくれて。制作が追いつかなくなってきて。

SOUQ
うめだスークで、オープンと同時に100人ぐらいのお客さんが走ってきたこともありましたね。小屋から人があふれて。

mellow
あのときは予想もしてないし、足がガクガクしてました。

SOUQ
納品のタイミングをSNSにあげたら、人が押し寄せて、mellowさんの到着を待ってましたね。

mellow
私もそんなに人が待っているとは思ってなかって。私の小屋から人があふれていて「何これ?」と思っていると、ひとりのお客さんが私に気づいて、「あっmellowさんや!」って言った瞬間に、固まっていた女子の大群がさっと道を開けてくれて…モーゼになった気分でしたね(笑)。

SOUQ
アクセサリーづくりは、完全に独学なんですか?

mellow
そうです。だからとにかく毎日つくってましたね。一昨年ぐらいまでつくらない日はなかったです。

SOUQ
それはアクセサリーづくりを始めてからずっとですか?

mellow
はい。24、25歳のころ、うめだスークさんなどでお客さんが増えていくにつれて、アクセサリーづくりを仕事にしたいと意識し始めて。それまではバイトも大好きだったんですけど、急につまらなくなり始めて。作品をつくっているときに、いまこんなにノッてるのにバイトに行かないとダメというのがすごくイヤで。これで食べていけばいいんだって、スッと気づきましたね。だから1カ月後にはバイトを全部辞めてました。



SOUQ
アクセサリーに専念しようと心に決めたんですね。

mellow
とりあえず一生懸命作品をつくって。もう必死すぎて覚えてないんですけど、26歳のときに完全に制作1本でやるようになりました。そこから、雑誌にもちょくちょく取り上げられるようになって。東京へも展開したくなって。また急なんですが、代官山にある[Aquvii]という若手作家登竜門的なお店に飛び込みで作品をもっていったんですよ。

SOUQ
いつも飛び込んでいくチャレンジ精神がすごいです。

mellow
そのときは、東京に自分のお客さんがいるとは思いもしなかったんですが、SNSとか見てくれたのか、結構お客さんが来てくれたんですよ。思ったより売れて。もっとがんばったらこれを仕事にして食べていけるという確信に変わりましたね。アクセサリーづくりの知識もないし不安はすごくあったけど、ただ毎日つくるということだけはしてきた。それしかなかったんですね。

SOUQ
そこから、忙しい日々が始まるのですね。

mellow
詳細は本当に覚えてないんですけど、いただいた話はがむしゃらにすべてやって。ほんとにひどいときは、6日間まったく寝ずにつくり続けていたこともありました。

SOUQ
6日間まったく寝ずにですか!

mellow
そう。1時間たりとも寝なかったです。

SOUQ
よく倒れなかったですね。

mellow
いや、倒れたんですよ(笑)。

SOUQ
体は大切にしてください。専念してやり始めて、何か変わったことはありましたか?

mellow
それまでは自分の好きなようにつくっているだけだったんですが、ちょっと稚拙さとかも気になりはじめて。それまではハンドメイド感がすごくあって。好きなものを絵を描くようにデザイン重視でつくっていたのですが、人が身につけるということを意識してつくりはじめました。
SOUQ
実際に使うときのことを考え出した?

mellow
そうです。金具は肌に触れて痛くないかとか、表側はかわいいけど裏を見たら残念な気持ちになるんじゃないかとか。強度とかすごく気になりはじめて、接着の仕方もすごく意識しはじめました。

SOUQ
プロとしての意識が強くなっていったんですね。最近では、どういうところにこだわって作品をつくってますか?

mellow
このハートの形も、樹脂のアクセサリーだと簡単そうに見えるんですけど、自分で型をつくっていて。ほんとはもっとマットな質感でできあがるのが普通なんですが、自分で1回削ってからコーティングしてます。でもそれだけだときれいにならないから、もう1回削って、さらにコーティングするんですけど、それが滑らかな曲線にするのがすごく難しくて。



SOUQ
削る前は、マットな質感ですもんね。ここから磨き上げるんですね?

mellow
はい。指紋とかついてもダメだし。でも手の感覚は大事だから、指の腹でさわるんですね。気泡が入らないようにライターで炙りながら消しながらとか、垂れたりしないように飴のように木にクルクル巻きつけながらとか、いろいろ工夫してます。

SOUQ
かなりの手順や手間、そして時間をかけてできあがるわけですね。

mellow
そうですね。自分で言うのもなんですが、だいぶきれいに仕上げられるようになりました。始めの頃はちょっと雑でしたね(笑)。もう、全部回収してきれいにして返したい!