ものづくりの現場で活躍しているさまざまな人にインタビューする「ピックアップクリエイター」。今回は大阪を拠点に、独自のデザインで注目されているファッションブランド「RBTXCO(アールビーティ)」のヒガシテッペイさんに話をうかがいました。
SOUQ
まずは、「RBTXCO(アールビーティ)」という、ちょっと読みづらい(笑)、ブランド名の由来をお聞きしたいのですが。
ヒガシ
高校時代につけた名前で…。
SOUQ
えっ、そんな頃からブランドがあったんですか!
ヒガシ
高校2年から、布を触りだして服をつくるようになって。
SOUQ
それはまた早い時期からですね。青春のブランド・ストーリーをお聞かせください。
ヒガシ
その頃はバイトもしてたんですけど、せいぜい月に使えるのは10,000円ぐらい。カバンを買うにしても、いいなと思うのは10,000円以上するし、それ以下のカバンはちょっとしっくりこない。じゃあ自分でつくろうと素材を買って手縫いで始めたんですよ。当時友達とバンドをやってたんですけど、ドラムスティックが入る大きさのカバンを友達につくってあげたり。布を勝手に切ってプラモデルをつくるような感覚でやりだしたのが最初で。気がついたら「オレにもつくってくれや」という友達がちらほら出てきて。
SOUQ
きっと好評だったんですね。
ヒガシ
それで誕生日に、家庭用ミシンを買ってくれとかあちゃんに頼みました。
SOUQ
誕生日プレゼントにミシンをおねだりする男子高校生も珍しい(笑)。
ヒガシ
はい(笑)。そこから文明の利器を使えるようになり、見よう見まねで縫っていくんですね。そうすると洋裁をやっている友達のおかあさんたちが「てっちゃん、こんなんあかんで」と、ファスナーの縫い方を教えてくれたりして、どんどんおもしろくなっていって。そのときはブランドにするという発想は全然なかったんですけど洋服もつくり始めた。それで当時(京都の)新京極にあったショップに、「売ってください」と服を持ち込んだんですよ、生意気にも。
SOUQ
それは思い切りがいいというか無謀というか…(笑)。
ヒガシ
そうすると、そこの店長がすごく酔狂な人だったので、なんと売ってくれたんです。
SOUQ
それはすごい!
ー誰もわからないのがいいなってー
ヒガシ
それで結局、バイト代ぐらいは稼げるようになったんですよね。
SOUQ
ちょっとしたビジネスですね。
ヒガシ
わずかですけどね。でもそうなったらおもしろみも出てくるし、お店から「アクセサリーもつくってみたら?」とか、「いまならこういう服がいいよ」とか言われたり。どんどんつくるようになりました。それでなにかブランド名がいるなあと思って、「RBTXCO(アールビーティ)」といういまのブランド名を考えたんですね。
SOUQ
すみません、ちょっと意味がわかりにくくて…由来を教えてもらっていいですか。
ヒガシ
「偶然の産物」という言葉を英語にしたくて、中学のとき通っていた塾の先生に相談したところ「Result by chance」が良いんじゃないかと言われ辞書を見せてもらったんですよ。そしたらそこに発音記号が書いてあって。この表記かっこいいなあと思って。先生からは「発音記号って日本以外のどこの国の人もわからんで」と言われたけど、逆にどこの国のひとも分からん方がおもしろいやん!と発音記号rizalt bai tfa:nsをブランド名にしました。その後独立の時にrizalt bai tfa:nsからRBTXCO(XCOは一緒に立ち上げたナヲコのブランド名より拝借)となりました。
SOUQ
発音記号からのネーミングだったんですね。高校生としてはなかなか高度な発想。いまも「RBTXCO」のシーズンテーマって、かなり深い意味がありそうな気がします。2017年の「HUMAN DEAD MEDIA」とか。
ー最終的に残るのは内臓ー
ヒガシ
いまの時代って、みんながいろんなものを外に出すというか。漢字なんかはパソコンやケータイで打って確認しないと、手書きだけでははや書けないですよね。
SOUQ
もうそれは間違いなくそうです。
ヒガシ
算数の計算も、電卓なしで暗算で出すかというと確実に電卓を通してるし。足し算ができないわけじゃなくて、いまの世の中、大事なものになると外注するようになってるなと。本日の献立もクックパッド開いてもはや外注してるし、人とのつながりもSNSで外に出してるようなもんだし
「HUMAN DEAD MEDIA」というテーマが生まれるきっかけとなったクリアフォン。「What can see?」と書いてあって、これにピントを合わせて撮ると向こう側がボケる。「いろんなところでこれで写真を撮っていると、みんないろんなものを外注してるなと思った」とヒガシさん。
SOUQ
なるほど。
ヒガシ
そうやって全部を外注したら、最終的に人間に残るのは内臓しかないと思ったんですよ。自分の優秀な部分をどんどん外に出して、外面よくインスタでありもしないことをやってたり。彼女もいないのにデートしてるみたいなね。そういうふうに外注していてパッと気づいたら、自分には醜い肉体だけが残ってるってなっても、「RBTXCO」は「ええやん、それきれいやで」って言いたかったんですよ。
SOUQ
それで出てきたテーマが「HUMAN DEAD MEDIA」。
ヒガシ
人間が、最後に死にかけのメディアとなったときに、それでも人間を肯定したいとなったんですね。だからつくった服の花柄の中に人間の部位を描いたりしました。下顎の骨があったり、肋骨や髪の毛があったり。アウトプットの仕方としては、「RBTXCO」らしく、なにかとなにかを足して一度破壊して、でもそれをポジティブに持っていくというふうにはしているつもりなんですけど。
SOUQ
すごく深く考えてらっしゃいますね。
ヒガシ
僕の中で、テーマを考えるということは毎回、いま自分が気になってるもの、どちらかといえばファッションに関係ないものに向かうぞと決めること。向かうぞと決めたものに対して自分の今までの経験や情報の中で、それになにをメッセージとして乗せたいかを決めること。そしてそれをみんなで共有することです。
SOUQ
2018年春夏のテーマは、「百舌(もず)の早贄(はやにえ)」という、およそファッションブランドらしからぬテーマでしたね。
ヒガシ
テーマを考えてる時期に、専門学校の学生さんに講義をさせてもらう機会があり、最後に質疑応答の時間があったんですね。そのとき一人の学生から、「ヒガシさんは高校生のときからすでにブランドを始めていますが、そんな若いときに人生を決めてしまうのは怖くなかったですか?」という質問があったんですよ。
SOUQ
たしかに「RBTXCO」はそのころから、これまでずっと続いてますものね。
ヒガシ
たまたま続いていますけど、そのときはこれでずっとやると決めたつもりはまったくなくて。
SOUQ
高校生だと、なかなかそこまでは考えられませんよね。
ヒガシ
いまの学生ってSNSがあるからアーカイブが明確に残るじゃないですか。でも僕らのころはなかった。だからいくら失敗しても、親とか兄弟とか周りの友達から「あいつブランド始めたけどやめよったな」って、そのとき言われる程度。それがいまの子たちだと、やったこととか言ったことが残ってしまう状況なんだなと思ったんですよね。若い頃に後先考えずにいろんな経験をしておくのは絶対必要だけど、将来の自分がSNSを見たときに恥ずかしいからやめときますという保険をかけてしまう。
SOUQ
SNSに残ってしまうから、思い切ったことができない。
ヒガシ
そういう現状に対して、「もっとやりいよ」と言いたかったのが最初のメッセージだったんですよ。じゃあもっとやるためにはどうすればいいか? ということを考えていったときに出てきたのが「百舌の早贄」。
2018年のコレクションから「日本庭園」シリーズの柄。レース調の柄に盆栽やウツボカズラ、食虫植物などが描かれています。「薔薇とかと違って、食虫植物とかはみんなが日を当てなさすぎてかわいそうになってくるんですよね」とヒガシさん。
SOUQ
どういうことでしょう?
ヒガシ
百舌という鳥は、冬ごもりをする前に虫とかネズミとかカエルを山ほど捕獲して棘のある木に刺す。そして冬の間にお腹が減ったらそれを食べるという習性があるんですね。
SOUQ
そういえば! 思い出しました。
ヒガシ
でも、餌食にした50%ぐらいは忘れてしまってたり他の鳥に食べられたりして、自分のものにはならない。ということは、百舌は秋の間じゅうずっとムダになるかもしれない獲物を取り続けるんですよね。
SOUQ
そんなにも食べてないものなんですね。
ヒガシ
人間でいうと16歳から20歳ぐらいまでのエネルギーがある時期に、ムダになるかもしれないけど、いろいろやったらいいのになという気持ちが「百舌の早贄」に結びついたんです。
ー伝統工芸をパンクにー
SOUQ
なるほど。そういう想いがテーマに込められていたんですね。
ヒガシ
そうなんです。あともう一つ、2018年は日本の伝統工芸の要素を入れてるんです。いま伝統工芸になっているものも、江戸時代、若者の誰々くんが師匠の言うことを聞かずにつくったものなんじゃないかと想像したときに、パンクなテンションで伝統工芸を拾っていったら、いまっぽくなるんじゃないか。たとえばこれなんですが…。
SOUQ
かわいいトレーナーが登場しましたね。
ヒガシ
この服は、「金継ぎ」がテーマなんですよ。
SOUQ
割れたうつわなどを漆と金粉でつなぐ金継ぎですか?
ヒガシ
そうです。このフロントにあるキャラクター、刺繍を依頼した工場のありとあらゆる手法を施したさまざまな素材を金で継いでいでるんですよ。
SOUQ
本当に。よく見るとそうなってますね。
ヒガシ
袖も金色のファスナーで継がれていて外せるんです。外すことによってまだ気候が暖かい秋口にも着れるし、寒くなってきたら袖を付けて着る。金継ぎの根底に、モノを大事にしましょう、たくさん長く使いましょうという精神があるとすれば、洋服の袖をつけたり外したりすることで、それが可能になるんじゃないかと。洗濯も分けてできますし…。
SOUQ
日本の伝統工芸の精神が服にも注がれているわけですね。
ヒガシ
いまなんとなく学生の社会状況を知る、知ったことに対して、洋服を通してなにかメッセージを出したい。そうすると百舌の早贄が出てくる。それをデザインの面でどうアウトプットするか? 百舌という言葉も日本のパンクバンド名みたいよな、なんてことを話し合うわけですよ。そうしてルックブックで、「トゲトゲギザギザ」という謎のパンクバンドをつくって、“みんな炎上が怖いかもしれないけど、大炎上の後に大往生があるよね”という、よくわからない韻を踏んだ歌詞を載せたり(笑)。
SOUQ
服だけでなく、バンドや歌詞までつくったんですね。
ヒガシ
高級ブランドがスーパーモデルを使ってコレクションを開催するのと同じように、僕らがブランドでつくったものをどうパッケージにのせてお客様に届けるかが大切。大がかりなショーではなく、架空のバンドをつくることでみんながちょっと引っかかってくるとか。僕が言いたかったことが文章で伝わるような仕掛けをしつつ、みんな若いときにやりたいことをやろうよ! って伝えたい。
ー2019年のテーマは「ニューエスニック」ー
SOUQ
それは声を大にして言いたいですね。ところで今年のテーマはなんですか?
ヒガシ
2019年は「ニューエスニック」です。いまのファッション業界のなかで、エスニックものに光が当たってないなあと思ったのが1年前。改めて新しいエスニックというものを考えたときに、ごちゃ混ぜにしたいなと。国や出自を際立たせるわけじゃなくて、自由を表現するためにエスニックにスポットを当てる取り組みができへんかなと思ったんですね。
SOUQ
混ざり合う文化ですかね。
ヒガシ
いま「RBTXCO」の売り上げの3分の2ぐらいは香港なんですよ。
SOUQ
それはかなりの割合ですね。
ヒガシ
中国の人にとって、民族問題ってすごくナイーブ。だから「ニューエスニック」という新しい作品も香港で扱うには難しいところがあって。でも取引先はすごく肯定してくれたんですよ。「これはすごくいいと思う。なぜなら『RBTXCO』がやっているから」と言ってくれたんですよ。
SOUQ
その言葉はうれしいですね。
ヒガシ
“いま”光が届かない領域の事柄に、ファッションがスポットを当て忘れているものに対して、「RBTXCO」がどうアクションを起こせるかを常に考えています。
SOUQ
「RBTXCO」をスタートした高校時代を終えると、服飾の専門学校に入られるんですよね?
ヒガシ
はい。そこで同じ服飾を目指す仲のいい友達がどんどんできるようになって、本格的にブランドを立ち上げようという話が出て。今もいっしょにやっているナヲコはそのときからの仲間です。
SOUQ
長いおつきあいになるんですね。
ヒガシ
そう。でも卒業して4年間はいったん解散し、いろいろ視野を広げようとそれぞれ社会人生活を経験しました。
SOUQ
それは必要なことかもしれませんね。
ヒガシ
僕はテキスタイルのデザインの会社に入り、パソコンを使って柄を描く仕事を4年間してました。同じ建物内にプリントする現場があったので、どういうふうに加工するのか、どう版を起こすのか、そういうことをいろいろ学びましたね。それで4年後に「みんな集合や!」と(笑)。
SOUQ
満を辞して再会、再開ですね。そのときチームは何人で?
ヒガシ
もともと3人だったんですけど、そのうち一人が子どもができて、乳児を抱いてブランド立ち上げはさすがに無理ということで、結果集まったのはナヲコと僕。そこから二人で、最初はビジネスという感じで全然なく、服をつくりたいという想いだけで始めました。
SOUQ
それから、少しづつブランドが成長していったんですかね。
ヒガシ
ブランドを始めた当時は、仕事するにはショップに直接出向いて洋服を見てもらって、そこで店長とのやりとりがあって初めて関係が生まれるという時代。
SOUQ
今ならSNSでやりとりできるかもしれないですけどね。
ヒガシ
そう。でも大阪や京都ならいいのですが、遠方だと足繁く通うのが難しくて、ある企画書をつくったんですよ。
ーハンガーラックの買い取りー
SOUQ
ある企画?
ヒガシ
はい。それがショップのハンガーラックを1本5,000円で買い取らせてくれという企画で。
SOUQ
ほう。間借りさせてもらうようななものですかね?
ヒガシ
そうです。仙台とか長崎とか遠方のショップに連絡をして、ハンガーラックを買い取らせてもらって。「そこは確実に洋服を埋めますから、売り上げの何%かをください」と。
SOUQ
それはなかなか斬新なアイデアでしたね。
ヒガシ
そういうことを続けているうちに、なんかおもろいやつが出てきたぞということで、関わってくれる人がちょこちょこ出てきたんですよ。
SOUQ
そこから注文が増えていくように?
ヒガシ
そうですね。でもまだ将来のことが見えてる状況では決してなく。つくるのは楽しい、生み出すのは楽しい。でも手づくりでやっていたので、反応があればあるほど睡眠などの時間が削られていって。僕もブランドを始める前には一人目の子どもがおったんで、もう少し利益というのを考え出さなあかんよねということになった。
SOUQ
売れ出すとそういうジレンマはつきものですよね。
ヒガシ
それで工場を使って生産しようと。とはいえ、自分たちの手でユニークな洋服をつくりたい気持ちはずっとあったので、二つの折衷案を考えました。一つはこんな生地見たことないというオリジナルのファブリックをつくること。もう一つは、制作の6割ぐらいは工場でやってもらって、最後のややこしい部分は自分たちでやるという方法。この2つのやり方で他のブランドにはないオリジナルをつくっていったんです。
SOUQ
大量生産の既製品ではなく、どこか手づくりの部分は残しながらですね。今このアトリエでも、みなさん忙しく手を動かしてらっしゃいますもんね。
ヒガシ
そうですね。毎シーズンサンプルはほぼここでつくっています。それを展示会にかけて、これでいくと決まったものを協力工場さんに量産してもらうサイクルでなんとかやってます。
ー道につながるものづくりー
SOUQ
「RBTXCO」ぐらいテーマがバラバラだと、作品のテイストもその都度変わってきそうですね。
ヒガシ
そうなんです。毎回できるだけいい意味で裏切りたいと思っていて。たとえば女性シンガーは、「彼からメールがまだ来ない」ということだけで1曲つくれるんですよね。少女漫画でも「クラスのあのイケメンと、親の再婚で同棲することになりました」という設定だけで、漫画30冊描けるじゃないですか。
SOUQ
それ、すごくわかります(笑)。
ヒガシ
でも少年漫画だと、「ある少年が仲間と出会いながら、こんな旅をしてこんな武器を手にいれて、あの場所を目指します」とかが多い。男性シンガーが歌う結婚ソングも、「おまえに会って、こんなこともあって、こんなことも思ったけど、いまはこうで、将来こうするぜ」みたいな歌じゃないですか。
SOUQ
たしかに(笑)。男子はなにか展開が必要なんですかね?
ヒガシ
やっぱり道なんですよね、考え方が。洋服でいうと、僕としてはいろんな要素、いろんな社会問題、いろんなテーマであっても、「RBTXCO」にインプットされたら、うちのユーザーが喜んで着てくれるものがアウトプットされるというのが理想的で、才能の出しどころと思っています。常にパンクでいきますとかアウトドアでいきますとか縛りたくない。
SOUQ
道につながるものづくりか。
ヒガシ
たとえばいまのトレンドだからと、世の中の服がすべて赤になるのはおかしい。でも実際にトレンドってあって。そのトレンドの風景の中で、自分たちは何色を差したらおもしろいか、とにかくユニークなものをつくろうと。そうなると、やはり柄もんに行き着くんですよ(笑)。
SOUQ
もう柄だらけですもんね(笑)。いま「RBTXCO」の柄物の割合はどれぐらいですか?
ヒガシ
もう100%です(笑)。ちょっと前までは、そうでもなかったんですが、もう柄じゃない服をつくる恐怖たるや…。
SOUQ
でもいまの日本の服って、昔に比べてあまりにも柄物が少なくなってきているような気がするのですが…。
ヒガシ
そうなんですよ。ヒートテックのような機能を重視した生地がここ最近すごく出てるんですが、こういう生地って、すでに機能という付加価値がついているので柄はつかないんですよね。。
SOUQ
機能があれば柄はいらないというわけか。
ヒガシ
たとえば服に水玉の柄がついてるとして、「水玉ついてるならやめる」という人と「水玉ついてるから買いたい」という人では、今はやはりやめる人の方が多いような気がするんですよ。
SOUQ
水玉が嫌いだとそうなりますよね。
ヒガシ
でも僕の個人的な思いでいうと、水玉が好きという理由で買ってくれた服と、無地は嫌いじゃないし買おうという服があるとしますよね。
SOUQ
思入れがあるかどうか。
ヒガシ
娘を育てたとして、どっちに嫁いでいくほうが幸せかという発想でいくと、やっぱりこの子が好きやと言ってくれる人のほうへ嫁がせたい。消去法じゃなくて、圧倒的にこの子が好きという人に嫁いでいってもらうほうがいい。だから誰よりも好きになってもらえる服をつくっていきたいですね。
ヒガシ
ここ最近は、展示会に対する考え方も少し変わってきてますね。
SOUQ
それはどのようにでしょう?
ヒガシ
洋服の展示会というのは、だいたい東京で開催して、世界中からバイヤーさんが来て、注文をもらってその数を量産するというのが流れだったんですけど。展示会で新しい人と出会うことがだんだん少なくなってきてて。
SOUQ
そうなんですね。
ヒガシ
展示会に対して予算を組んで仕掛けても、リアクションがそこまでとれないということがここ何年かずっとあったんですね。だから最近畑を変えようということで、去年から美容室で展示会をするようにしてまして。
SOUQ
美容院で? それもまた珍しい。
ヒガシ
その美容院はちょっと変わってて、業務用のトリートメントをつくっている会社が運営している、スタイリストがいないヘアサロンなんです。
SOUQ
美容師さんがいない美容院?
ヒガシ
そう。銀座にあるんですが、空間だけある美容室。その会社の卸先のサロンが全国にいくつもあるんですが、そこに所属する人気スタイリストさんがハサミだけ持って来て髪を切るというシステムなんです。
SOUQ
おもしろいシステムですね。
ヒガシ
そう。美容業界では画期的で、いっしょにやりませんか?と言われて美容という文脈とファッションという文脈が合致するのでやっています。
ー西脇で始めた「365cotton」ー
SOUQ
ヒガシさんは、そうやって従来の慣習や枠に収まらず、いろいろな試みをされてますね。
ヒガシ
子どものとき、学校でもお尻痒くなるから教室の椅子に座ってられへんような落ち着きのない子どもだったんで(笑)、いろんなものを混ぜるというか、タブーと言われることをするのは得意というか。新しいことをやる恐怖感はそんなにないし。間違ってしまったら誠心誠意謝りますし。なんとなく世の中、謝る状況をつくったらあかん、謝るようなことになるなら最初からやらんときという風潮があるような気がするのですが…。
SOUQ
そういう空気はありますね。
ヒガシ
なんだかんだ、この12年間で僕みたいな人間が必要よねという世の中になってきた感覚が自分の中でありまして。自分としてはただただわがままで、おもしろいと思うような人には、この指止まれって声かけただけなんですけど、ファッションとは少し文脈の違う仕事にふれる機会が増えてきましたね。その中のひとつが「365cotton(サブロクコットン)」。
SOUQ
それはどういうプロジェクトでしょうか?
ヒガシ
「RBTXCO」は香港との取引が多いのですが、「Made in Japan」と「コットン100%」の表示がタグについてたら売れるんですよ。
SOUQ
信頼の証ですかね。
ヒガシ
それで、7年前ぐらい前にできるだけコットン100%でアイテムをつくろうと言ってたときがあって。でも、コットンはどんな植物かはわかってるんですけど、100%の部分がわからんと思って。当時インターネットで検索しても、コットンがどう生育されて、それがどう生成されて、コットン100%の生地になるのかが全然わからない。そうこうしてるうちに兵庫県の西脇に播州織の産地があり、シャツになる生地をつくっているのがわかった。そこで70代のおじいちゃんたちが開くコットン栽培のワークショップがあるという情報を見つけて参加したんですよ。
SOUQ
70代が主催するワークショップというのはすごいですね。
ヒガシ
はい。それから栽培を1年間毎月手伝わせてもらったんですよ。で、これをもっとみんなに知らせたいということで、企画書を書いた。
SOUQ
ヒガシさん、ことあるごとに企画書書いてますね。
ヒガシ
コットンの栽培は5月から12月まで行われるんですけど、5月10日のコットンの日に種をまいて、11月ぐらいから収穫を始めて、12月いっぱいで収穫が終了する。それを多くの人に経験してもらおうという企画です。
SOUQ
その企画書はどうなったんですか?
ヒガシ
その年の収穫が12月に終わったとき、おじいちゃんたちに、「1月の初めに餅つきをするからおいでや」と誘ってもらって。いっしょにお餅をつきながらその企画書を見せて、「こういうことをしたい」って言ったら、「60歳の定年から15年経って初めてワークショップを立ち上げたら、こういう話が出てきて。これもなにかの縁やろう」と言ってくれて、空き地だった場所を開梱して畑をつくってくださったんですよ。
SOUQ
想いが届きましたね。
ヒガシ
そこから「365cotton」が始まっていま6年目。次7年目の種植えになるんですけど。いまようやく生地ができたり、それで製品をつくるようにもなりました。
SOUQ
コットン100%の服といえば、生成りのふわふわしたのを思い浮かべますけど、「RBTXCO」のイメージと違いますね(笑)。
ヒガシ
そうなんです(笑)。でも僕はとても自然が好きなので、自然を知るための一つとして、「RBTXCO」がコットンをやるんだ?と興味を持ってくれる人もいればいいなと…。西脇で動いてくれてるメンバーがいるからできることであって、僕は月に1回イベントとして行くだけなんですけど。
SOUQ
西脇の実働部隊は70代のおじいちゃんたちなんですか?
ヒガシ
いえ、僕らと同世代で機屋さんで働いている若い人たちが、畑の前の古民家を借りてそこに4人で住み込んでくれています。仕事行くときにチラッと畑を見てくれたり、夏は雑草が多いので草刈りをしてくれたり。子どもが来たときには、コットンは食べられへんからトマトをちょっと植えてくれたりしてるんですよ。1年間通してやってくれています。
SOUQ
自分たちが育てたコットンが製品になるのはうれしいものなんでしょうね。
ーアーティスティックなぬいぐるみー
ヒガシ
もう一つ別の活動が、「ウォールラグ」シリーズです。
SOUQ
それはどういう活動ですか?
ヒガシ
洋服づくりをしていると、ハギレとかのゴミがどうしても出る。それをとにかく捨てないで、ぬいぐるみをつくるという企画で。
SOUQ
1点もののぬいぐるみですか?
ヒガシ
そうです。たとえば店名にうさぎが入っているお店だったら、うさぎのぬいぐるみをつくるとか。この試みはちょっとアートなテイストがあるので、アートイベントに呼んでもらったりして、アーティストさんの知り合いが増えましたね。
SOUQ
さらに幅は広がりますね。
ヒガシ
アート系の人たちの生き方って、ある意味社会人じゃないんですよね。人間の原始的なところに向き合うというのがどこかにあって、手が勝手に描いたっていうような哲学みたいなことを言われるのが自分の中で心地いい。農業をやる人とかは、朝起きて天気が悪かったら稲刈りはやめるというのは当たり前というような哲学を持ってて。それはそれでファッションとかけ離れていておもしろい。
SOUQ
フィールドによって、考えていることや染みついたものって変わって着ますよね。
ヒガシ
真ん中にはファッションがあるんだけど、アートの人たちの発想、農家さんの持ってる時間の考え方、子どもや家族のことで三角形が描かれている感じです。そこをすべてできるだけていねいに関わる日常が過ごせればいい。これまでを振り返ってみて、いろいろなことがムダにはならなかったかなと思ってやっています。