下町クリエイターズビレッジ

下町クリエイターズビレッジ


さまざまなジャンルで活躍するクリエイターを紹介する「ピックアップクリエイター」。今回は、メッシュを始め独特の素材で個性的な作品をつくるファッションブランド「POTTENBURN TOHKII」の中島トキコさんに話を聞きました。


SOUQ
中島さんは関西出身ということですが、東京にいらっしゃったのはいつごろなんですか?


中島
いちばん最初は、10年くらい前に「ミントデザインズ」という会社でインターンをするために出てきました。


SOUQ
「ミントデザインズ」というのは、どういう会社だったんですか?ファッションブランドですか?


中島
そうです。私が以前通っていたロンドンにあるファッションの専門学校を卒業された方がやっていて、すごく素敵なんですよね。グラフィカルで、色みが鮮やかで、服の構造も面白くて。


SOUQ
「ミントデザインズ」でインターンをする前から、こういうデザインがお好きだったんですか?


中島
そうですね。わりとはっきりした色だったり、幾何学柄が好きです。


ー松が谷2丁目ネットワークー

SOUQ
インターンを終えて、そこからすぐブランドを立ち上げたのですか?


中島
いえ、一度関西に帰って2年ぐらいブランドの準備をしていました。また東京に出てきたかったんですが、なかなかきっかけがなくて。そんなときに台東区の「デザイナーズビレッジ」の面接を受けて入居することができたので、そこからずっと東京にいますね。


SOUQ
「デザイナーズビレッジ」って、クリエイターの支援施設ですよね?


中島
はい。廃校になった小学校をアトリエとして貸し出していて、制作ができるんです。



“POTTENBURN”とは、自分の中に潜むつぼ(pot)の中の宇宙(天:ten)がバーンとはじけている(burn)という意味の造語。“TOHKII”はトキコから。


SOUQ
「デザイナーズビレッジ」を出て、台東区に残っているクリエイターも多いですよね? かつてSOUQ ZINEでインタビューしたアクセサリーブランドの「フィリフヨンカ」さんも近所じゃないですか?

中島
もう、すぐそこで、2本北の筋です。

SOUQ
このへんは合羽橋も近いし、ものづくりをするのにはいい環境なんですかね?

中島
そうですね。いま縫製をお願いしている方も浅草にいて、自転車で服を持ってきてくださるんです。浅草橋にはパーツ制作をお願いできる会社さんもあって。ファスナーを注文したら、早ければ夕方には上がってきます。

SOUQ
そんなに早く!

中島
そうなんですよ。ポストに届けてくださるんです。他にも裏地とか、素材はだいたいクルマか自転車で届けてもらってますね。



SOUQ
即日配達か。そういう環境はいいですよね。やはり、界隈はものづくりの仲間たちが多かったりしますか?

中島
そうですね。先月「デザイナーズビレッジ」を卒業した子が、すぐ近所に引っ越してきて、その並びに革のクリエイターさんとか、この松が谷2丁目だけでもクリエイターさんが結構いますね。

ー自転車で、即配達!ー

SOUQ
もはやこのあたりは“クリエイターズビレッジ”ですね。

中島
本当に。村の人たち、みんな仲いいですよ。



SOUQ
「ミントデザインズ」でインターンをする前は、なにをされていたんですか?

中島
ロンドンの専門学校に1年いました。

SOUQ
ロンドンに行く前は、ファッションの勉強はされてたんですか?
中島
大学の文学部に通っていました。

SOUQ
その頃から服のデザインをしたいという想いはあったのですか?

中島
そうですね。中学生ぐらいからデザイナーになる!というのはずっとありますね。

SOUQ
ドアのベルが鳴りましたね。

中島
あっ、浅草から服が届きました!

SOUQ
それで何着ぐらい入ってるんですか?

中島
これで10着ぐらいですね。

SOUQ
これは新作ですか?

中島
はい。これは2019年春夏の「いとをくむ」というテーマの作品です。

SOUQ
2019年春夏の新作のシーズンテーマは「いとをくむ」。これは「糸を組む」ということですかね?

中島
その意味もあるのですが、「意図を汲む」という意味もあります。

SOUQ
ダブルミーニングなんですね。

中島
そうなんです。たとえばこのパンツを着た人は、左足から最初の一歩を踏み出してほしくて、左足のほうが一歩分前に倍ほど生地が付いてます。



SOUQ
なぜ左から一歩踏み出してほしいんだろう…。


中島
この理由のために左にしたわけではないですが、一説には神社の鳥居をくぐるのは左足かららしいです。だからこれを履いてたら、そのことを忘れない(笑)。

SOUQ
なるほど! そういう意図を汲まなければいけないわけですね。これはなかなか分かりにくいかも(笑)。しかし、どこからそういう発想が生まれたんですか?

中島
私、いまコンテンポラリーダンスを習いに行ってるんですが、ペアで踊っているとき、先生が「いとをくんで、もっといとをくんで」でって言うんですけど、私絶対赤い糸とか、つながってる糸のことだと思って。



SOUQ
普通はそう思わないですよね(笑)

中島
ふだん糸ばっかり見てるからかもしれませんが(笑)。終わったあとに、先生が「相手の意図をもっと汲んだ感じに」と話されて、あっ、そっちの“いと”か!ってやっと気づいて(笑)。

SOUQ
それが新作のテーマになったんですね。

中島
はい。コンテンポラリーダンスも仕事に活かせましたね。だからコレクションのイメージビジュアルも、ダンサーさん3人に踊ってもらいながら撮ってます。

ー小説から磁石へー

SOUQ
楽しいですね。いまは2019年秋冬のテーマを考え中ですか?

中島
はい。次のテーマは「両極端」にしようと思っています。

SOUQ
これはまた難しい。このテーマはどうやって発想されたのですか?

中島
最初は磁石っておもしろいなって思ったところから始まっていて。じゃあ磁石を服にするにはどうする? ってなって、近くの子ども図書室で科学の本を調べるんですけど、磁石遊びですごく素材に転用できるものがあるんですね。

SOUQ
磁石遊びで?


中島
たとえば蹉跌とか。

SOUQ
懐かしいですね。磁石がおもしろいって思ったのはどうして?

中島
うーん、どこからだったんだろう?…磁石を調べ出したのは、なんでだったんだろう?…。あっ思い出した! 『両方になる』という本を読んだんです。なんか、二人の人間がいて交差するみたいな小説を読んで。それを活かせないかなと思って。両方になる……両極端……磁石! みたいになって。哲学的な本を読むのが好きなんですけど、響きがおもしろかったりする言葉とかからアイデアが浮かんだり。

SOUQ
これまでのテーマも「カミナルカミナリ」とか、「トケルトケナイ」とか、言葉遊びがおもしろいですよね。



中島
ものにするまでが苦戦していますけど。この素材をどうおもしろく見せられるかなあとか、どうやったらウワァ!と驚いてもらえるかなとか、ずっと考えてます。

ー縞々の島に暮らす姉妹ー

SOUQ
直近の2018年秋冬のテーマが「縞島(しましま)」でしたよね?

中島
いかに縞々をおもしろく伝えられるかということを考えたときに、シマ=小さな島だなって思ったんですね。「縞々の島には姉妹が住んでて、お姉ちゃんは島を出たいから無地ばっかりきているけど、妹は島にいたいから縞模様ばかり集めてる」とか、ストーリーを膨らませていきます。

SOUQ
なるほど。「縞島」というテーマなので、ストライプの服ばかりなのかと思いきや、結構無地もありましたもんね。

中島
そうなんです。姉は島(縞)から出たいので、でもそんな姉も島の心は忘れてなくて、ベルトの裏側とか襟の裏側には縞が入ってるんです。

SOUQ
そのへんは、こうやってお話を聞かないと全然わからないですね(笑)。

中島
伝え方が難しいですね。

SOUQ
でもそれぐらいがいいような気がします。あからさまにわかりやすいメッセージよりも。
中島
でも、インスタグラムで、いままでは私がほんの少しだけ言葉を載せていたのですが、前回、いまみたいに私がざくっとしゃべったことを文章のプロにまとめてもらってアップしたところ、すごく反応があって(笑)。

SOUQ
やはりプロは違うと。

中島
言葉で伝えるって大事だなと思って。お客さんもいままでは「あのピンクの服が見たくて」だったのが、「『縞島』のお姉ちゃんのほうの服を見たい」ってなったりとか。実際いままで私とかスタッフに直接会わないと伝わらなかったことが、ワンクッション先にSNSで伝えられるなと実感しました。

SOUQ
「縞島」の前のテーマはなんでしたっけ?

中島
……なんだったっけ……。

SOUQ
結構忘れるもんなんですね。

中島
忘れます。

SOUQ
でも過去は忘れていかないと、新しいものを生み出せないですよね?

中島
そういうことにしときます(笑)。



SOUQ
テキスタイルはオリジナルでつくってらっしゃるんですか?

中島
私は絵は描けないので、工場にある見本を参考にしながら生地のデザインをしているんですけど、柄というより糸の立体感をどう出せるかとか、色でどう魅せれるか、素材の表情のほうを考えていきます。

SOUQ
そのへんはオリジナルでつくっているんですね。

中島
そうなんです。

SOUQ
いま身に着けてらっしゃる服の生地も独特ですよね?

中島
これは、縦編みといって一応ニットなんです。メッシュ屋さんが編むとこういう感じになってくるんですけど。

ーはじまりは鳥よけネットー

SOUQ
こういう生地は、いつから、どうやって始めたのですか?

中島
もともと、ホームセンターに行ったときに農業用の鳥よけネットが売っていて、このネットで服をつくったらおもしろいなと思って、そういうものをつくってくれそうなところはないかと、“ネット”、”“工場”というワードで検索したんですよ。

SOUQ
ルーツは鳥よけネットだったんですね(笑)。

中島
検索したら1軒だけ京都の工場さんが出てきて。一か八かで「私は面白い服が作りたいんです。麻やウールといったやわらかい糸で鳥よけネットみたいな生地はつくっていただけますでしょうか?」ってメールをしたら、「一度来て見学してください」という返事が来て。おぉ!となって、ロットは大きいんだろうなあとか、ずいぶんビクビクしながら工場を訪れたのを覚えています。

SOUQ
大きな会社だと、なかなか小ロットの生産は受けてくれませんもんね。

中島
そうなんです。でもお会いして、「少ない量でもいいよ」ってつくってくださったのがきっかけで、それからはメッシュばかりつくるようになりました。きっとお手間だったとは思うんですけど。いまでも。

SOUQ
もともとその工場は、鳥よけネットなどをつくっているんですか?

中島
洗濯用のネットであったり、スピーカーについてるネットだったりいろいろつくってられます。縦編みは縦の糸を全部変えなければならなくて大変で、少量生産向けではないんですけど、いつも試してみてくださって。

SOUQ
すごくいい会社ですね。

中島
本当に。京都の西院にある「富士ニツティング」さんという会社です。いつも「どうなるかわからないけど、いっぺんやってみよか」と言ってくださって。針がポキポキ折れたこともあったんですけど。わーすみませんー!と、試行錯誤しながら…。

SOUQ
「富士ニツティング」との出会いで、今のようなメッシュの素材を使った作品が多くなるのですね。

中島
そうですね。お客さんにも「えー。これなに?」って驚かれると、よし!って思うんですよ(笑)。見たこともないもので人を楽しませたり、驚かせたりしたいというのがあって。

ー着物に合うヘアバンドー

SOUQ
最近、SOUQ ZINEでは、ヘアバンド人気ですよ。

中島
ありがとうございます。ヘアバンド、洋服はもちろんなんですが、最近では着物と合わせてくださったりもします。呉服屋さんでも販売いただいていて。

SOUQ
そうなんですね。ちょっと意外です。どういうきっかけで取り扱ってもらってるんですか?

中島
いろいろありますが、八王子の呉服屋さんは、私が作品をギャラリーで展示してるときに観に来てくださって、それがきっかけだったり。

SOUQ
「POTTENBURN TOHKII」のヘアバンドは、着物に合うんですかね?

中島
最初は意外でしたけど、色や素材などの和の要素につながるものがあるかもしれません。着けてみましょうか?



SOUQ
ぜひお願いします(笑)。

中島
こんな感じです。

SOUQ
かわいいですね。案外着物に合うヘアバンドは少ないのかもしれないですね。呉服屋さんもアンテナを張って、新しいものを探してるんですね。

SOUQ
服以外のアイテムでこれからつくっていきたいものはありますか?

中島
そうですね、今後バッグとかは考えています。バッグだと洗わなくていいので、生地や糸の表現がまた広がるのかなと。

SOUQ
仕事以外で最近ハマっているものはありますか?

中島
舞台を観に行きますね。

SOUQ
よく観に行かれるのですか?

中島
毎月とまではいきませんが、演劇や落語、最近歌舞伎も見はじめました。

ー衣装をつくりたいー

SOUQ
なにか刺激があったりしますか?

中島
衣装や空間にヒントを得たりします。あとはコンテンポラリーダンスも。

SOUQ
「いとをくむ」というテーマが生まれたきっかけの。

中島
そうです。ダンスの衣装もいつかやってみたいなと思っていて。でも、どうつながっていけばいいかがわからない。じゃあダンス教室に通おうと。全然踊れないですけど。



SOUQ
まずはそこを突破口に。

中島
そうです。好きなことにまず飛び込んでみる。以前テルミンユニットのザ・ぷーさんのライブ衣装をつくらせていただいたんですが、そのときも、元々大好きでライブに通いつつ、知り合いつながりの何人かに「ザ・ぷーさんの衣装をつくりたい」ということを話したら、1年後に夢が叶ったり。



SOUQ
衣装は、やはり舞台が多いんですね。いまハマっている歌舞伎の衣装とか?

中島
恐れ多いです。でもどこかになにか可能性があるかなあとか勝手に妄想したりはしてます。教育テレビは表現が面白いなと思ってみていたりします。

SOUQ
教育テレビなんですね(笑)。

中島
そうですね。好きです。


ー服にだってオチをー

SOUQ
中島さんは、神社や歌舞伎など日本の伝統文化に造詣が深いですね。

中島
いえいえ、たまたまですけど。

SOUQ
落語もお好きと聞きましたが?

中島
はい。おもしろいなと思ったのは、話が進む中でどこで落とすかというところで…。

SOUQ
それを服にも?

中島
ある落語家さんの本で、「漫画家は絵を描いたらそれで伝わるけど、落語家はしゃべったことをお客さんが頭の中で具現化しなければならない」とおっしゃってて、ああ、面白いなと。それって、服だとどうできるのかなと考えたりします。ぱっと見てこの柄がかわいいという伝え方だけじゃなく、ぱっと見シンプルに見えて実はね…といった面白みを服にも取り入れたいなと思って聴いています。

SOUQ
服に落語的な背景というのはなかなか高度ですね。

中島
最後のオチでひやっとしたりとか、うわっ、こうひっくり返るんだという感覚をどうできるかなと。服としての美しさの中にクスッとできる部分を入れたいんです。たとえば、私のつくった生地でミモザみたいに見える黄色いつぶつぶの生地があるんですけど、そのつぶつぶは実は粉雪で、それを食べたくてレモンシロップをかけてるとか。あっそうやったんや!となる瞬間やストーリーを大切にしてます。

SOUQ
オチを洋服の中にも入れたいんですね。

中島
落語で最後にうわーってなるあの瞬間が好きで。あと、広告にも刺激を受けたりしますね。

SOUQ
広告?

中島
金鳥の蚊取り線香の新聞広告で、紙面に何匹も蚊が飛んでいて、数字の順につないでくださいと書いてあって、全部つなぐと「買って」となるんですよ。「買って」と「蚊って」もかかっていて。たぶん。そういうアイデアの出し方に、はーっ、なんかおもしろいーって。そんなだから、服づくりじゃなくてもいいのかもしれないけど、いや、でも服でやっていきます!(笑)。